以前、お話をしたように、ここ1・2年、自社(グループ会社を含む)の知財戦略の再構築という仕事をしています。2014年はインプット中心の仕事でしたが、年明け早々からアウトプット中心の仕事に切り替え始めました。

今日は、その際に、いわゆる中小企業に分類される自社グループ会社の知財戦略の再構築を検討していて気がついたというか、考えたことの現時点でのまとめです。


結論からいうと、今日のタイトルのとおり、『中小企業*1にオオカミは来ない。』ということです。
少なくともオオカミが来る確率は極めて低く、合理的な経営判断をした場合、そのリスクは無視しても構わないレベルになる、ということです。

つまり、何が言いたいのかというと、特許権者等の知的財産権保有者から、中小企業が知財権侵害のクレームを受ける可能性は極めて低いため、中小企業が他社(者)の知的財産権侵害回避のための調査等を行うことは経済合理性に合わない、ということです*2

さらに言ってしまうと、『オオカミが来るよ、来るよ。』=『知財権者からのクレームが来るよ、来るよ。』と言って、だから『他社の知的財産権を侵害しないように特許調査とか商標調査とかしないと、損害賠償請求されたり、事業そのものが差止請求によって継続できなくなってしまいますよ。』というアドバイスを中小企業の経営者にしても、経営者のこころには響かないというか、言っていることが現実感をもって理解されることはない、ということです。

というのも、このようなアドバイスを中小企業の経営者がその経験を踏まえて聞くと、自分自身はもちろん、自分の知り合いの経営者のほとんどが、「知財権者からクレームが来た!」という経験をしたことがなく、現実感がほとんどないからです。
どのくらい現実感がないかというと、ざっくりとしたデータですが、平成24年の法人数(個人事業主を含む)は約400万社*3で、平成10年から平成19年までの1年間に裁判所が受理した知財訴訟の平均件数は581.2件*4ですので、1年間ビジネスをしていて訴訟を提起される確率は約0.014%、仮に訴訟の10倍のクレームがあったとして0.14%、100倍のクレームがあったとして1.4%です。
ちなみに、平成18年(2006年)の中小企業白書によると開業1年後の事業存続の確率は72.8%ですので、1年目の廃業率は27.2%です*5

つまり、知財権保有者から知財権侵害のクレームを受ける心配をするよりも、そもそも自社の事業が利益を生み出すことができるかどうかを心配する方が、経営者にとって重要なわけです。
そのような状況において、他社(者)の知的財産権侵害回避のためにコストをかけるというのは、非常に費用対効果が悪い(と思えてしまう)わけです。

中小企業の知財戦略を構築する際に、「このようなアプローチはとるべきでない。」というのが、現時点での私の結論です。
では、どのようなアプローチをとるべきなのか?
そのうち機会を見つけてまとめてみたいと思いますが、たとえば、中小企業の事業戦略として、ニッチ戦略があります*6。ニッチャーになるためには、ニッチな市場を見つけるか、生み出さなくてはなりません。
このような活動は、マーケティングそのものですが、このようなマーケティング活動に、知的財産を活用していくことができるように思います。このような考え方は、以前紹介した『マーケティング・ツールとしての知的財産』に通じるものがありますので、参考になると思います。

<脚注>
*1 中小企業とは、製造業・その他の業種:300人以下又は3億円以下/卸売業:100人以下又は1億円以下/小売業:50人以下又は5,000万円以下/サービス業:100人以下又は5,000万円以下。中小企業の定義は中小企業庁の定義によります。
*2 特に、コストがかかる特許調査は、経済合理性に合いません。
*3 総務省統計局の「日本の統計2015」「第6章 企業活動」より。エクセルデータは、こちら
*4 最高裁HP「知的財産権訴訟に関する統計資料」より。
*5 中小企業庁による「中小企業白書2006」より。なお、このデータによると、企業の5年後の生存率は約40%、10年後では約25%です。
*6 最近では、『グローバル・ニッチトップ』戦略というのもありますね。中小企業によるグローバル・ニッチ戦略の可能性