前々回前回に続いて、「テクニカルシンギュラリティと契約法務」についてです。

仮に、「テクニカルシンギュラリティ」が来なかったとして、2045年頃の契約法務の仕事はどうなっているのでしょうか?
今までと同じように契約書を作成するという法務部員の仕事が存続するのでしょうか?


「テクニカルシンギュラリティ」が来なかったとしても、「希望は天上にあり」の弦音さんがいうとおり、コンピュータの進化に伴い、人間の能力もまた強化される、という未来になる可能性は十分にある気がします。
この場合、人間の認識が外部化され、人間の知能が仮想空間に移せるようになり、その結果、人間の知能が工学的に進化させられるようになる、というのが、弦音さんが書かれている一つの未来です、

「テクニカルシンギュラリティ」が来て、人工知能の能力が人類を超えるかどうかは良く分かりませんが、「人間の認識が外部化され、人間の知能が仮想空間に移せる」というのは、容易に想像がつきます。
というのも、現時点でも、知識(の量)という意味では、既に人間はインターネット等を使って、多くの外部記憶を利用しており、その方向性に世の中が進んでいるからです。
そうすると、外部化された自己の知識領域に大量のデータが保存されるか、または、インターネットにある膨大な情報等にアクセスすることで、これまで法務部員に確認していたことを、自らの(外部化された)知識によって確認し、判断することができるようになる、という未来は容易に想像がつきます。

『人類はAIを恐れる必要はない:Googleエリック・シュミット語る』
テスラCEO、イーロン・マスク氏は、「人類はAIで悪魔を呼び出そうとしている」という発言をしており、「テクニカルシンギュラリティ」が来る可能性が高いという立場からこのような発言をしているようですが、世界で最も洗練されたさまざまな人工知能システムの開発に密接に関わってきたグーグル会長のエリック・シュミット氏は、「本当の脅威は、世界中の教育制度にある、と彼は考えている。つまり、ますます進化する「知的機械」と一緒に働くのに求められるスキルを、生徒たちに教えられていない。」
と言っています。


ある意味、企業内の法務などのアドバイザー的な業務というのは、外部化された(自己の)知識領域ですから、確認する先が、法務部なのか、弁護士(事務所)なのか、外部化された自己の知識領域なのかが異なるだけとも言えます。
従って、企業内の法務部員は、弁護士(事務所)と同様に、これからは人工知能やコンピュータと、業務の棲み分けをするのか、競争をするのかを判断する時期が近々やってくる気がします。

では、その時期はいつか?
この点についても、前述の弦音さんが興味深い視点を提示して下さっています。
「人工知能は正否、当否、適否の順に判断能力を拡大させ、人間の労働領域はその先にシフトする」

詳しくは、弦音さんの上記記事をお読み頂きたいと思いますが、私なりに要約すると、
正否 -科学技術は宇宙の法則の上に成り立っている
当否 -法律とはルールである
適否 -経営判断に正解はない
そして、AI(=人工知能)は、この順番で進化するのではないか?
さらに、完璧な適否判断ができるようになった人工知能の次の課題は、「不合理な判断」をすることができるか?に進んでいく。
という仮説を立てられています。

さてこの仮説が正しいとすると、いつごろから法務部員が人工知能やコンピュータと、業務の棲み分けをするようになるのか、競争するようになるのかは、人工知能やコンピュータの進化の程度によるということになります。

~ つづく ~