不定期で発行されている知的財産法政策学研究の第44号が、こちらからダウンロードできるようになりました。
この知的財産法政策学研究には、以前「GREE v DeNA 釣りゲーム訴訟」の田村教授の論文に言及したときにも、少し紹介をしました。


今号では、田村教授が『日本著作権法のリフォーム論 - デジタル化時代・インターネット時代の「構造的課題」の克服に向けて ー 』と題して、なんと116頁にも及ぶ論文を書いておられます。

この論文は、
本稿は、デジタル化時代、インターネット時代を迎えた日本の著作権法の課題を炙り出し、長期的な改革の方向性を提示しようとするものである。
という一文から始まります。

そして、次のように続きます。
一般的に法学者が立法論を語る場合、解釈論の延長線上で考察し、現在の法律の下における利害のバランスのとり方をベイスラインとして、新たな環境変化に応じてそのバランスに過不足が生じたところを矯正し、従前と同様の均衡点を目指すというような発想に(黙示的に)立脚していると推察される議論が提示されることがある。
現在の法におけるバランスのとり方のエッセンスを抽象化して特定の概念ないし理論を作出し、その範疇に新たな事態が包含されるのか否かという発想で立法論を語るという手法はその典型例といえる。
この種の手法には、急激な制度的変化を抑止し漸進的な解決を図るとともに、従前と同様の均衡を維持するに過ぎないという形で人々に納得感を与えさせるという法的思考様式に備わる美点を見出すことができよう。

落ち着きどころの良い、いわゆる常識的な結論ですね。
個人的な感想ですが、こういう結論を導く力をリーガルマインドというのではないでしょうか。
通常は、解釈論において使用される言葉だとは思いますが、立法論を含む法律学全般を対象として、リーガルマインドという言葉を使うとこういうことなのではないかと思います。

しかしながら、田村教授の野心的な本稿は、だいぶ目指すところが違うようです。
しかし、劇的な環境の変化を迎えた現在の日本の著作権法は、政策形成過程におけるバイアスに起因する構造的な課題をいくつか抱えている。そのような法制度の将来を語ろうとするときにまで、法解釈論の延長線上に立法論を語る在来の手法に依拠していたのでは、バイアスの産物である現行法のバランスのとり方を永続的に維持するだけに終わる。その意味で、著作権法の将来像を考察することは、法学方法論の実践という意味でも興味深い作業といえる。
そこで、以下では、現在の著作権法制をめぐる諸アクターの動向を分析し、そこに政策形成過程のバイアスが存在することを確認し、次いで、著作権法制の歴史的な変遷を追うことでバイアスがもたらした現在の法制
度の歪みを特定するという手法を用いることにより、インターネット時代において著作権法が抱えている構造的な課題を明らかにし、それに対する長期的な対応策に思いをめぐらすことにしたい。


以前のエントリーで、今年、田村教授の著作権法概説の第三版が発売されるのでは?という話をしましたが、本稿を見ると、その準備は完了したようですね。
ここ数年の最新の事案、そして判決に多数触れられています。
噂どおり、今年改訂版が出版されそうですね。本当に、楽しみです。

あとは、本稿が、著作権法概説の第三版の代わり、にならないように祈るばかりです(笑)。