前回、「IPマネジメントレビュー 第9号」の紹介の際に、『最新号は、第10号なのですが、第10号の紹介は後日にするとして(たぶん)」と書きましたので、今日は、その「IPマネジメントレビュー 第10号」の紹介です。


このIPマネジメントレビューは、国家試験である知的財産管理技能検定試験の制度設計、開発、実施、監修等を行っている知的財産教育協会が発行している知的財産マネジメントに関する国内外の最先端の情報を掲載している知財専門誌です。
知的財産マネジメントに関する本ですので、内容的には、企業の知財実務向けの論考が多く、知財部員や法務部員向けだと思います。
また、今号の特集はこれからゲーム業界の知財部や法務部を目指す学生やLS卒生には、知財部や法務部が具体的にどのような仕事をしているのか、イメージが湧きやすくなると思いますのでお勧めです。

さて、今号は、知財高裁所長の飯村敏明判事の『知的財産権を巡る紛争とその解決について思うこと』という「巻頭言」にはじまり、「ゲームと知的財産」という特集のもと、「座談会(ゲーム業界の今と、知的財産の新しい課題)」、「ゲームに関する国内の知的財産訴訟」、「米国のビデオゲームに関する知的財産訴訟の動向」という3つの記事が主要な記事になっています(もちろん、後述の目次にあるように、他にも有益な記事がいくつもあります)。

飯村判事の巻頭言では、『企業、大学及び研究機関において、法的紛争を長期間抱えることによる損失は、大きいものがある。そのような損失の拡大を防ぐためには、次の点が重要である。すなわち、①専門家のアドバイスを受けて、将来生じる紛争のリスク評価、 回避可能性、紛争解決の方法等についての綿密な調査を行うこと、②契約する際には、丁寧かつ詳細に検討して、締結すること、③研究・開発に携わるスタッフに対する紛争に対する心構え、紛争解決マインドを醸成させる努力をすること、④紛争解決システム(裁判かその他の紛争解決システム)の得失を正確に理解すること等が重要であるといえる。』としています。
若干抽象的ですが、短い論考なかでとても良く整理されており、企業の法務・知財部門の方々には、非常に有益な示唆なのではないかと思います。
これを具体的な施策として、日々の業務に落とし込んでいくことは難しいですが、このような仕事は企業内にいる法務部員や知財部員の本質的で、かつ重要な仕事のひとつだと思いますし。このあたりが面白いと思えると、法務部員や知財部員としての適正があるように思います。
さらに、飯村判事は、「知的財産管理技能士あるいは知的財産管理技能士を目指している方々が、企業、大学及び研究機関の技術を正確に評価し、技術の活用について、的確な助言を与えるとともに、紛争回避のためのよりよいあり方を提示できれば、我が国の知的財産権の強化に資するといえよう。』としています。
この点についての具体的な記載は、残念ながらないのですが、それを裁判官である飯村判事に求めるというのは、求め先が違いますよね。

これはやはり、特集記事「座談会(ゲーム業界の今と、知的財産の新しい課題)」や「ゲームに関する国内の知的財産訴訟」にあるように、実務の最前線にいる方のお話を聞かないといけないと思います。

そのような観点から特集記事のひとつめ「座談会(ゲーム業界の今と、知的財産の新しい課題)」を見ると、なかなか面白い議論が展開されています。
そのなかで、ゲーム業界以外でも参考になるものがあるように思いました。
たとえば、
①ゲームは、グラフィック、プログラム、音楽等さまざまなものから構成されている。
②したがって、著作権に限らず、特許権、商標権、不正競争防止法および不法行為法というように活用できる権利、法律は多岐にまたがる。
③そのため、複数の権利を確保して、権利活用時にそれぞれの権利や法律がどのような要件の下に、どのような効果を発揮するのか、意識して使い分ける必要がある。
④たとえば、著作権侵害も商標権侵害も主張できる場合に、過失の立証が容易か否かを検討し、過失の立証が容易でなければ、過失の推定規定のある商標権侵害で権利行使をする。
といったことです。

規模の大きな、人員の充実した知的財産部であっても(むしろ、そのような組織であればあるほど)、特許権・商標権・著作権といった権利毎に縦割りの組織が形成され、組織間の連携が悪く、例えば、権利侵害となる競合製品やサービスが実際にどのように行われており、そのような侵害に対応するため、どのような権利が効果的で権利確保の優先度が高いのかをトータルで検討・検証する部署がないことが多いように思います。
部署がなくても良いのですが、その場合は、知的財産部長を中心に、権利毎に縦割りに組織化された、それぞれのチームのリーダーやマネージャーが、組織横断的に知財戦略を立案できるようになる必要がありますよね。


最後に、以下、本号の目次です。

CONTENTS

■ 巻頭言
・知的財産権を巡る紛争とその解決について思うこと
知的財産高等裁判所所長 飯村 敏明

■ 特別寄稿
・今後 10 年の知的財産戦略 ―「知的財産政策ビジョン」の策定
内閣官房知的財産戦略推進事務局 参事官補佐 松木 秀彰

・商標制度の国際比較( 2 )
ユアサハラ法律特許事務所 パートナー弁理士 青木 博通

■ 特集「ゲームと知的財産
・座談会 ―ゲーム業界の今と、知的財産の新しい課題
一般社団法人日本オンラインゲーム協会 事務局長 川口 洋司
虎ノ門南法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士 上沼 紫野
株式会社スクウェア・エニックス ライツ・プロパティ管理部 音楽出版事業部
ジェネラル・マネージャー、二級知的財産管理技能士(管理業務) 筑紫 泉

・ゲームに関する国内の知的財産訴訟
一級知的財産管理技能士(コンテンツ専門業務) 深野 愼一

・米国のビデオゲームに関する知的財産訴訟の動向
弁護士・ニューヨーク州弁護士 今井 鉄男

■ 海外の知財最新事情に学ぶ(Vol.2)ベトナム編 2013
・―ベトナムにおける知的財産保護の現状と模倣品対策について―
日本貿易振興機構(ジェトロ)ハノイ事務所 古賀 健司

■ 連載「知的財産管理技能士のための会計学講座」
・第 5 回(最終回)知的財産の価値ってどうはかるの?
早稲田大学 商学学術院 准教授 山内 暁

■ Report
・国際競争力の高い日本企業の特許分析 ― KOMATSU NO HIKETSU ―
東京工業大学大学院キャリアアップ MOT(CUMOT)知的財産戦略コース(平成 24 年度)“チーム C 推し!”
村上 里香、関矢 聡、根来 宏佳、髙見 憲


■ 研修レポート
・第 10 回定例研修「『中国を中心とした模倣品問題の現状と対策について』
~水際(税関)における知財保護の活用と企業における具体的取組事例の紹介~」レポート
研修委員会


■ 知的財産管理技能士資格の活用事例~全国の知財技能士を訪ねて~
Case.2:三菱マテリアル株式会社
・三菱マテリアル株式会社の知的財産室発
・「全社知財教育」への取り組み
~技術系、事務系すべての社員に知財教育を

■ コラム「一期一会」
・第 6 回 ホワイトハウス、パテントトロール対策法案を進め、連邦裁判所も特許主題を絞る
米国特許弁護士 服部 健一

■ 知財関連省庁からのお知らせ
・模倣品・海賊版対策の相談業務 年次報告のご紹介
・知財ファンドの動向と展望 知財の有効活用による継続的成長に向けて
・知的財産教育協会からのお知らせ
・読者アンケート